補聴器 【その16】 補聴器のはなし①「花火の音」

補聴器のはなし①「花火の音」  

ある日突然に・・・

 それは暑い夏の出来事だった。夫の姪や甥が夏休みに田舎のわが家に
遊びに来ていた。庭でにぎやかに花火大会が始まったが、花火の音が
いつものようにバンバン聞こえない。あれと思って見るテレビの音も

遠くに聞こえる。まだ三十代なのに急に耳が聞こえにくくなったのだ。
ふと不安がよぎる。子供もまだ小さい。疲れたのだろう。少し休めば
良くなると思い横になる。

 しかし、その日をきっかけに、もう以前のように小さい音が聞こえるようには
ならなかった。

ハンディの重さに

 学校や地区の役員の順番が回ってくる。見た目はどこも変わっていないので
で、役員をやりたくない言い訳としか思われない。断ることもできず、
みじめな思いをしなくてはならない事を嘆いた。

 職場でも、課長職に昇進した矢先の出来事に、悔しくて悲しくて情けない

思いが体中をかけ巡った。「何とかして、聞こえるようになりたい」と考え
耳かけ式、耳あな式、両耳用と手当たり次第に補聴器を求めたが、それでも
思うように聞き取れない。トンチンカンな返事を繰り返す毎日が続いた。

車が買えるね!

 ある日、最近のデジタル補聴器がかなり良くなったという話を聞き、
「とりあえず試聴だけ」と相談会に行った所、今までの補聴器とは本当
に違う。「いいな」という私に、お店の人は「ちょっと高いですけど」
と言う。「そうですね。車が買えてしまいますね」

 私の車は十年も乗っている軽自動車だ。また、車検を受けて乗ろう。
車を買うのを止めた。「お父さん、私の耳を助けてね」夫にそう言って
この補聴器を買うことに決めた。

 明日からテレビもラジオも会議も友も家族も、みんなの話を聞き取る
ことができるかと思うと、嬉しくて嬉しくて涙がでた。